私が幼い頃。母か祖母が食事の準備をするのが当たり前だった。だけどなぜか、ハヤシライスだけは父が作った。母も祖母もハヤシライスは作らない。それは父の係。カレーライス?カレーはもちろん母。父はカレーは作らない。
 ”ハヤシライスはお父さん”。これを妙だなと思うこともあったけど、ものごころついた頃からそうだったから、まぁそういうものなのだろう、と思い口にはしなかった。



 つい最近。私の1人暮らしの部屋へ父が遊びに来た。今、1人暮らしを始めて7年かな。父が来るのは2度目。実は学生時代に父が住んでいた場所と今の私の住まいが同じエリアなので、ただ単に「娘の部屋へ遊びに行く」という感覚だけではない様子。一緒に外を歩きながら、昔はこうだった、ああだった、と話す父。そして、こんな話も。
 "岡崎の近くに○○というお店があって、そこでハヤシライスを食べて、すごくおいしいなァと思った。もちろんハヤシライスなんて初めて食べるし「なんだろう、これは」と思って。貧乏学生が行けるくらいだったからそんな高級な店じゃないと思うし、まだあると思うんだけど…。"


 小さい頃からの当たり前。小さくひっかかってた「妙」なこと。25年目にしてようやく分かった。
 そうか、父は家族に「おいしかったあの味」を作ってあげたかったんだ。だから、自分が作り続けたんだ。
 滞在中、一緒に別の洋食屋に入ると父はハヤシライスを注文した。食べながら”家ではこの味は出せないんだけど、何が入ってるんかなぁ。この酸味とか…”とぼそぼそと喋っていた。そんなにハヤシライスを研究してるとは全く知らなかった。まぁ、作る度に「どうだ?どうだ?」と執拗に味の感想を聞いてこないのがうちの父らしいことなのだけど。
 父が感動したハヤシライスがある店は、当の本人が場所をしっかり覚えてないから今回一緒に行けてないのだけど、店の名前はしっかり覚えたので、探してみて行きたいなぁと思うよ。まぁ、来年・・春くらいになるかな。自転車でのんびり岡崎散策。早くそう出来るくらいのんびりしたいなぁ。