祝日。それも天気のいい。久々に手袋をつけないまま、自転車。目的地は何度か行ったことのある場所。だけど迷子。「川よりも、西側」ていうことだけが頭の中にあって、そう思って進んでたんだけど、そういえば鴨川って出町柳のとこから枝分かれしてるんだったっけ。「川」としか頭に入れてなかったから、どんどん西へ突き進んでた。自分が迷子になってる、というか道を間違えてることは分かってたけど、どんどん適当に曲がって、進んでみた。知らない道。知らない店。知らないバス停。これもまた、いい。



 夕方は柳月堂へ。柳月堂のぱんは、先週末にmanishia!さんにいただいて、初めて食べた。ほんで、今日は初めて2階の英国喫茶へ。店内では静寂にしなければならないっていうルールは知ってたけど、その他のことは何も知らなかった。店員のお姉さんは黒くて顔のラインにきれいに沿った前下がりのおかっぱで、色が白く、声も小さかった。終始聞き取れないような小さな声で接客をし、足音なく動いていて、この人の魂はおそらく半分この世にたどりついてないな、と思った。残り半分の魂はきっと彼女の小説の中に残ってるんだろう。クラシックのレコードが狂い流れる静かな「おへや」で(飲食するテーブルのある店内の1室のことを彼女は「おへや」と言った)静かにミックスジュースとフルーツサンドをいただいた。
 落ち着かない、わけではない。自分で足を運んで店へやってきたのに、引きずり込まれたような、招かれたような、不思議な感覚だった。店の入り口と、おへやの境目のとこで、いったん私も「この世」から離れたような感覚。彼女の小説の中に招かれたような。


 2時間ほど小説を堪能し(もちろん”読んだ”わけではない。彼女の小説の世界をさまよったのだ)おへやを出て、会計を済ませた。注文したものより、請求額が多かった。おかしいな、と思ったが、口に出さずに請求されたまま、支払った。おつりと領収書とともに、彼女の口から告げられた言葉で、チャージ料も必要だということが分かった。多かった分の請求額はチャージ分だったようだ。
 喫茶店でチャージ料まで加算されたら、普段のあたしなら、ちょっと納得いかないかもしれないが、ここでのチャージ料というのは、彼女に小説の中へ案内してもらう入場料に思えて仕方なくて、すごく納得した。500円ほどで小説の世界を体験できるなら安いかも知れないと思う。
 自転車にまたがり、家へと進む。京都というまちをまた1つすきになった。